ねことのひととき

ねこに癒される日々

盗まれた2000円   ・・・・ 記録20

60歳で脳梗塞を発症。現在77歳認知症発動中のじじ様。わがまま、ストーカー、暴力、挙動


不審に驚きばかりの日々です。


親としての威厳が失われていくのは哀しいものですが、親も人間だと改めて感じ、見つめな


おすことばかりです。親子という近い立場ゆえ苛立ちが爆発したり、ひどい言葉を発して


と後々で後悔することが多い中、考えや気持ち、今まで生きてきた環境、様々な想いを知る


事が出来るような気がします


認知症は治らない病気、将来80歳以上の大半の人が発症すると言われています。


私の父も認知症の診断を受けています。脳の中で何が起こっているかわかりませんが、 何


かをする、行動する、の前に何か理由、原因が必ずあると思っています。じじ様は人間の本


能の心思うまま行動するのです。



盗まれた・・・


朝 起きると妹の不機嫌丸出しの顔がいた。


妹が帰省して1ヶ月。


いくら家族といえど、何十年も離れて暮らしていたうえに、子供時代は両親が嫌いだったと


いう妹に精神の限界がきているようだ。


心を無に・・心を無に・・」


とつぶやいている。


じじ様に


「家に お帰り下さい


と言われ、妹が寝る部屋に居座り、なぜだか1人ずっと話している状態らしい。


つまり 妹が邪魔なのだ。


4日続いている。


妹は健気に深呼吸しながら、じじ様の世話を焼く。


そして


こんなに面倒みてあげてるのに・・


こんなに我慢してあげてるのに・・・


と何回も言う。


傍からみていると なんだか意地になっているようだ。


こんなに面倒みて優しくしてあげているのだから、邪魔じゃないよね、


と言っているような気もする。


なんだか 妹が可哀そうになる。


でも、なんか違うんだよね。押し付けても伝わらないよ。


病気ではなく、じじ様は認知症の症状なのだ。


その他は別に面倒をみる必要はないのだ。


~してあげている、必要はないのだ。


普通に。そう、ただ普通にしていればいい。


ただ、遠目に気を付けていれば 大丈夫なのだ。


 ~でしょう、~なのよ と決めつけるのではなく 、本人からでる言葉を


ゆっくり聞く体制をとるだけでいいんだよ。



妹の今回の帰省の目標は じじ様の施設への入居。


証拠を押さえるため、じじ様を隠れて観察。


これはばば様の カサンドラ症候群、うつ病等の予防の為だった。


頼りにならなくても、自分たちを育ててくれた親だから、やれるところまでやりたいと。


妹はじじ様とばば様に調教する。


そう、自分と同じ感覚の生活を押し付けていたのだ。


確かに妹はよく面倒を見ていた。


ばば様をゆっくりさせる為、掃除や洗濯、家事 、じじ様の話し相手、


(妹は食事が苦手なので食事は私が作るのだが) 張り切っていた。


そう、1週間程なら助かる。


でも 家事をするばば様の仕事を取り上げてしまってしまっているのに気づかない妹は


ぼ~っとしているばば様にも苛立ちが募っていくらしい。


それはばば様も同じだ。


じじ様の世話にいら立ち、家事がストレス解消になっていたのに 妹に取り上げられ


そして調教される日々。。。


だが妹も善意で・・・とばば様は思い込み だんだんと話しがかみ合わず口数が少なくなっていく。


妹も 価値観の違い、思い通りに行かない焦りで いらいら感が止まらない。




じじ様が今日はご機嫌のようで 鼻歌をうたいながら外をうろうろしていた。


チャンス!


じじ様がいないのを見計らって ばば様を問い詰める。


パチンコ依存症のことだ。


じじ様はばば様から少しも離れなかったが、最近は少しばば様離れをするようになっていた


しかし、ばば様は調子よく笑いながら


「ギャンブルなんてしない」と嘘をつく。


更に問い詰めると


「じじ様が誘う!、じじ様が行きたい!って言う」


と言い訳をする。それも何もわからない じじ様のせいにする。


ネットでコピーしたギャンブル依存症チェック表を見せる。


「このギャンブル依存症のチェック表に全て 当てはまっているのよ」


それを見ていた ばば様は 逆に怒って切れてしまう。


「だって、すごく集中できるし、何も考えなくていい」


認めた。


そうね、たまの気晴らしならね。


うちはお金持ちではないから、余裕なんて一切ない。


毎月、電気代やガス代、水道代がちゃんと引き落とされているか いつとめられるか


心配でたまらない。


ましてや、パチンコなんていけるはずがない。


「何か趣味はないの?」


聞くと


パチンコ


ぶすくれたばば様 即答。


おい!!!



今まで話していた時間はなんだったんだ!!


これには さすがに私もカンカン。


ちょうどそこへ ご機嫌よく散歩から帰ってきたじじ様。


3人の(ばば様、妹、私)異様な雰囲気を読み取ったらしい。


その場に立ったまま


「すみません」


とかぶっていた帽子をとりながら 頭を深々と下げる。


何故、じじ様が謝る?


「あ~、パチンコね、うん、最近はでないからね」


とじじ様。


なぜ、何も言ってないのに パチンコの話だとわかるの?


どこかで聞いてた?


いや、じじ様はいま 散歩から帰ってきて玄関から入ってきたばかりだ。


聞いてるはずがない。


では カンなの・・・?野生のカン・・・?


凄すぎる。


ばば様の怒られているのにも関わらず、どや顔で 趣味は パチンコ と言い切れる事も


凄すぎて じじ様ばば様 圧勝です。


台所で後片付けをしていると じじ様がそっときて


私に2000円を渡し、真剣な目をして うなずく。


あー、じじ様にとって私はお金のない可哀そうな人なのだ。


じじ様のその心配や思いやりが身に染みて 笑いが出てくる。


忘れる事が多くなっても、自分のやる事がわからなくなっても


人を思いやる気持ちや、優しさは 変わらず 続いている。


自分の心の狭さに改めて反省する。


じじ様は認知症だ。


訳もわからず、叫んだりどなったり、トイレも失敗する。言葉も通じない。


だけど 本人が一番わからなくなっているのだ。


ばば様はじじ様にうんざりして冷たくあしらい、


妹は赤ちゃんを扱うように監視し、調教する。


じじ様は何もかも察している、申し訳もないともおもっている、


一人の普通の人間なのだ。


ただ 少しずつ脳が破壊されてきているだけ。


敬い、尊重しながら 対応しないといけない。


対応の仕方、話し方、じじ様の言い分、


ただ普通に接するだけ、それだけで不安も取り除ける。


今からどんどん症状がひどくなっていくのだろう。


そうなったとき、どうしようもなくなった時、私はどう判断すべきなんだろう。


今はまだ 笑える。優しい気持ちにもなれる。


妹の じじ様施設入居目標 に反対ではない。


じじ様がそれで穏やかに暮らせれば、と思う。


将来はそうなるだろう、それも近々。受け入れてくれるところが見つかればの話だが。


今はまだじじ様がいる家が当たり前だと思っているが


この先 当たり前ではなくなる。


だったら 今を少しでも居心地よく過ごせればベストだね。


有難い心のこもった2000円。


神棚に置いて この気持ちを忘れないようにしよう。


廊下を歩いていると じじ様がソファーに座ったままこちらをにらみつけている。


ん?


そして 私 を指さすと


「・・・2000円 なくなった。  盗られた


「この人が全部盗っていく」


えっ、なぜ?


私の気持ちは・・・2000円で左右される。